EXPOST VOL.2
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紀之定正一6 レガシーどう残す?Profile 紀 之 定 正 一 1983 年、真 生 印 刷に入社、現 在、同 社 常 務 取 締 役 兼LAB.AS 取 締 役。地 域・未来コーディネーターとして堺市を中心に大阪・泉州地域で地域貢献活動にかかわっている。紀之定正一さん「大阪・関西万博を機に、大阪は新しいことを生み出すチャレンジグな都市としてアピールしていきたいですね」。こう話すのは大阪商工会議所地域振興部長兼万博協力推進室長の玉川弘子さんだ。2025年に向けた準備だけでなく、「万博後」も見据えた大商の取り組みについて聞いた。 (聞き手は真生印刷常務取締役、紀之定正一さん)紀之定正一さん われわれの世代は万博と聞くと、1970 年の大阪万博を思い出します。私は当時小学6年生で、「月の石」を見るためアメリカ館に長時間並んだ記憶があります。肝心の石のことは覚えていないのですが…。玉川弘子さん 私は1歳になるか、ならないかでしたが、あの大混雑の中、両親に何回か連れて行ってもらったようです。それほど盛り上がったのですね。大阪商工会議所と万博のかかわりを紹介すると、1963年の新年互例会で杉道助・前大商会頭が佐藤義詮・大阪府知事に提案したのが大阪万博誘致のきっかけになったといわれます。その前に通産省の役人だった作家の堺屋太一さんが大商で万博について話され、先輩から「初めて耳にする万博という言葉が新鮮だった」と聞いたことがあります。実は大商は明治37(1904)年から万博招致を建議していました。さらにさかのぼると、後に初代会頭となる五代友厚が1867年パリ万博への薩摩藩の出展にかかわっています。貿易を発展させ、国や都市を発展させなければならないという思いがずっとあったのです。紀之定さん 大商さんの目線は昔から海外に向いていたわけですね。玉川さん 大阪・関西万博の会場建設費は政府、自治体、民間が3分の1ずつ負担します。大商は他の経済団体と共同で募金を集めていますが、「今のわが社があるのは大阪万博のおかげです。恩返しになるなら」と寄付してくださった企業もあり、感激しました。紀之定さん 「大阪万博の夢をもう一度」という期待は大きいです。玉川さん 大阪万博は大成功したけど、その後も大阪の地盤沈下は止まらなかったという指摘があります。動く歩道などは普及しましたが、レガシー(遺産)として大阪の成長につながったかというと、そうとは言い切れませんよね。紀之定さん 大阪・関西万博ではレガシーを残さなければならない。玉川さん 参考になるのは、1990 年に開かれた花博(国際花と緑の博覧会)です。大阪万博ほどのインパクトはありませんが、「自然との共生」という精神は花博をきっかけに広まりました。大商も会員企業さんに緑化を呼びかけるキャンペーンをしました。大阪の人の意識も変わったのではないでしょうか。紀之定さん 当社(真生印刷)も花博をきっかけに、小中高校生を対象にした「花と緑の絵画コンクール」を10 年間行いました。今年から新たにSDGs(持続可能な開発目標)をテーマにしたポスターコンクールを始めましたが、これはSDGs の目標年である2030 年まで続ける予定で、大阪・関西万博の共創チャレンジにも登録しています。玉川さん 今の時代は「成長一辺倒」はダメですが、衰退していいわけでもない。万博のコンセプトは「未来社会の実験場」です。大商では万博を機に新しいことがどんどんできるような環境を大阪に作っていかなければならないと考えています。そうすれば新しい人がやってきて新しいチャレンジが生まれようになり、大阪の成長につながります。紀之定さん 大商と大阪産業局は、大阪府・市、経済団体が万博に出展する「大阪パビリオ」の中小・スタートアップ企業向け展 示・出展ゾーンの企画・運営を担当されます。その大阪パビリオンのテーマは「REBORN」(再生)です。玉川さん このテーマには「人は生まれ変われる」と「新たな一歩を踏み出す」という思いが込められています。万博を新たなチャレンジのきっかけにしたい。そういう期待を抱いている企業は多いのではないでしょうか。それはスタートアップだけでなく、「第二創業」も含まれます。そんな大阪の中小・スタートアップ企業を発掘・支援し、成果や活躍を発信するのが展示・出展ゾーンです。紀之定さん どうすれば大阪パビリオンに出展できるのですか?玉川さん 万博の会期は半年間、26週間となります。その1週間ごとに展示企画を変えます。今年はまとめ役となる金融機関や公的な企業・団体を対象に、事業企画案を募集しました。来年はそれぞれのまとめ役が大阪府内の企業を対象に出展会社を選定します。万博前年の24 年には、どんな展示をするか磨き上げてもらいます。1つの企画に10社程度の出展を想定しています。紀之定さん 堺や東大阪には世界的技術を持つ中小企業があり、ちょうど世代交代の時期を迎えています。若い経営者が挑戦できると面白い。玉川さん 万博は晴れの場ですが、ゴールではありません。それまでの過程や、その後の成長も、まとめ役と一緒に支援していきたいと思います。紀之定さん 大商は現実空間と仮想空間をつなぐ「コモングラウンド」(共通基盤)にも取り組んでいますね。玉川さん 大阪・関西万博はリアルな会場だけでなく、バーチャル空間でも開催されます。バーチャル会場だけで完結せず、リアルとつないで人とアバターがやり取りできるようにしようとすると、いきなり難しくなります。それをシームレスにできるのがコモングラウンドで、建築家の豊田啓介さんが提唱しました。大商は電機メーカーや建設会社、IT企業などと昨年7月、実験拠点を大阪・天満に開 Nov.2022 VOL.02

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