子供たちに再び夢を真生印刷常務取締役紀之定正一6 Profile Nov.2024 VOL.05 紀之定正一 1983年、真生印刷に入社。現在、同社常務取締役 兼LAB.AS取 締役。地 域・未 来コーディネーターとして堺市を中心に大阪・泉州地域でオープンファクトリーなどの地域貢献活動にかかわっている。大阪・関西万博の参加型プログラム「共創チャレンジ」にも取り組んでいる。㊧青山さんが小学5年生の時、衝撃を受けた大阪万博の人間洗濯機(共同通信社提供)㊤サイエンスが大阪・関西万博に出展する次世代型の予想図(同社提供)紀之定正一さん1970年大阪万博で大きな話題を集めた「人間洗濯機」。その次世代型を大阪・関西万博に出展するのが、シャワーヘッドなどを製造・販売するサイエンス(大阪市淀川区)だ。54年前の少年時代、人間洗濯機に心を奪われた青山恭明会長は「今度の万博で同じような感動を今の子供たちに味わってもらいたい」という。(聞き手は真生印刷常務取締役、紀之定正一さん)紀之定正一さん 青山さんは2007年にサイエンスを設立されますが、そのきっかけは人間洗濯機だったそうですね。青山恭明さん 20年ほど前、小さな泡を作る技術で日本は世界をリードしており、半導体などの洗浄に使われていることをテレビの番組で知りました。その時、「バーン」と頭にひらめいたのが、大阪万博のサンヨー館で見た人間洗濯機。この超微細気泡の技術を使えば、人の体も洗えるのではないか。そう考えたわけです。紀之定さん 大阪万博や人間洗濯機には、どんな思い出がありますか?青山さん 私は小学4年生で、万博には20回入場しました。最初に訪れたのは開幕2日目。会場に入った瞬間、未来の世界に来たような気分になってワクワクしたのを憶えています。中でも忘れられないのが人間洗濯機です。「未来の住宅には、こんなお風呂があって自動で体を洗ってくれるんや」と驚きました。この頃、私が育った大阪の下町では風呂がある家はまだ少なく、私もよく友達と銭湯に行っていました。紀之定さん 大阪万博では人間洗濯機のほかにも携帯電話や電気自動車、動く歩道といった新技術・新サービスが登場し、その多くは実用化されました。人間洗濯機だけはいまだに実現していません。青山さん 当社の「ミラバス」は浴槽内に微細な気泡を発生させる装置で、お湯につかるだけで肌の老廃物を取り除いてくれる。人間洗濯機はすでに実用化されているわけです。最初に商品化したのは16年も前ですよ。ところが、いつまでたっても「人間洗濯機はできなかった」と言われ、悔しい思いをしていました。すると2018年11月23日、大阪で再び万博が開かれることが決まる。その翌年、会社の年頭会議で私は「万博に次世代型の人間洗濯機を出展するぞ」と全社員に宣言しました。紀之定さん (太陽の塔の前で青山さんを中心に社員が集合している写真を見ながら)これは当時撮影したものですか?青山さん 万博を知らない社員に万博を理解してもらおうと、万博記念公園(大阪府吹田市)に連れて行った時の写真です。当時は年商20億円ほどですから社運を懸けた挑戦でしたが、その後、シャワーヘッド「ミラブル」などのヒットがあって会社は急成長。大阪・関西万博で大阪府・市などが運営する大阪ヘルスケアパビリオンに人間洗濯機を出展することが決まりました。紀之定さん 開発は順調ですか?青山さん 今年10月か11月には完成する予定です。大阪万博の人間洗濯機は超音波で発生させた気泡を使いましたが、次世代型は水に圧力をかけ、直径1000分の1mmほどの「マイクロバブル」やさらに小さな1万分の1mmほどの「ウルトラファインバブル」という泡を生成。それが肌の毛穴に入り込んで皮脂や汚れを落とします。頭のてっぺんから足の爪先まで洗い、乾燥までして15分。さらに体だけでなく、心も洗います。背もたれに設置したセンサーが入浴者の心拍数を計測し、自律神経の状態を調べてリラックスできる映像や音楽を流すのです。これは大阪大学産業科学研究所の神吉(かんき)輝夫准教授と共同開発している機能です。三洋電機(現パナソニック)で人間洗濯機を開発した元技術者と、デザイナーとして活躍された方にも技術顧問として協力していただいています。紀之定さん 大阪万博では水着のモデルさんが実演をしました。私も小学生で、ドキドキしながら見た記憶があります。青山さん それは私も同じでした(笑)。今回は一般の人を対象に1000人の希望者を募集し、実際にパビリオンで人間洗濯機を体験していただく予定です。紀之定さん 人間洗濯機は今度こそ、一般家庭にも普及しますか?青山さん 万博にはカプセル型の人間洗濯機を展示しますが、サイズが大きいため、そのまま住宅に設置するのは現実的ではない。ただ、開発で得られた技術は万博後、製品に実装していく予定です。万博に
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